温熱設計Hino Architectural Design

1.パッシブデザインとは

パッシブデザインとは、四季を通じて光と風をコントロールし、自然の力の良い部分を引き出す設計思想・設計手法のことで、実際の設計作業では主に次の5項目を十分に検討していきます。

  • 断熱性能
  • 日射取得性能(冬)
  • 日射遮蔽性能(夏)
  • 通風
  • 昼光利用

1.断熱性能

断熱性能の設計がパッシブデザインなのかは、識者の間でも意見が分かれるところです。 ですが、窓の日射取得・日射遮蔽が完璧だったとしても、断熱性能が低いと、健康で快適な室内環境は絶対実現出来ません。ですので、断熱性能もパッシブデザインの一部だと考えます。

  • どんな断熱材を選ぶべきか?
    繊維系、ボード系、現場発砲ウレタンなど様々な種類の断熱材があり、大手建材メーカーがパネル化したものなどもあり、何を選ぶべきか、わかりにくい現状です。
    しかし、重要なことは、必要な十分な性能があることですので、「◯×工法だから良い」、「××ボードだから安心」という言葉は正しくありません。
  • 断熱材は施工が大切
    とくに繊維系の断熱材は施工レベルの違いがそのまま性能に表れます。
裸のグラスウールによる、充填断熱の例(防湿シート施工前)

グラスウール本来の性能を発揮するためには、グラスウールを押しつぶさないように施工することが大切です。そのためには、筋交いに当たる部分を切り取る、下地の幅に合わせて幅を切り詰めるなどの加工が必要です。一般的な袋入りのグラスウールでは、加工が出来ないので、裸のグラスウールを使うことが大切です。

どのくらいの厚さの断熱材が必要なのか?
スタイロフォームによる付加断熱(外張断熱)の例

健康で快適な室温環境にするためには、一般的な壁の中に断熱材を入れる充填断熱だけでは不十分です。壁の外側にも断熱する付加断熱(外張断熱)が必要です。

断熱・気密・防湿は、三位一体です!

気密・防湿が出来ていないと、断熱材の中で結露したり、冷暖房が隙間から逃げていったりしてしまいます。その結果、家の寿命が大幅に短くなる、冷暖房が効かないということになってしまいます。

裸のグラスウールによる屋根断熱の例(気密・防湿シート施工後)

気密・防湿シートのジョイントは、専用のテープで十分に処理し、台風の風圧などでズレ落ちてこないように、細い木材で支えている。

2.日射取得性能

冬には、日射しを取り込む(=日射取得する)ことで、陽だまりのような温かさを実現することができますので、なるばく多く取り入れたいです。 そのために、日射取得面(大抵は南側)の窓をなるべく大きくし、日射取得率の高いガラスを選びます。また、日射取得面が日射をとらえられるように、周辺の建物の配置・高さなどを十分に確認し、それに対応したプランを練ることが大切です。しかし夏の日射取得は、冷房負荷を増やすので、なるべく少なくしたいので、軒・庇などの設計が重要になります。これが次の日射遮蔽です。

冬の正午前の例。
軒は深く設計しているが、窓に向かう直射日光は、ほとんど遮らないようになっている。

3.日射遮蔽性能(夏)

日射取得面(大抵は南側)は、冬のためになるべく日射取得するように設計しているので、夏のために軒・庇・アウターシェードなどで十分に日射遮蔽するようにします。
また、日射取得面以外は、なるべく小さな窓+日射遮蔽率の高いガラスを選ぶことが基本となります。

夏の正午前の例。
軒を深く設計しているので、窓に向かう直射日光は、ほとんど遮っている

4.通風

活躍する時期は短いですが、頂側窓を設けることや、風向きに合った窓を設けることで効率的な換気により、外気冷房などを行うことができます。

吹抜の最上部北面に、頂側窓を設けた例。
頂即窓とは、この写真のように、勾配天井の高い側の上部に設ける窓で、熱気の排出に効果的であると同時に、(5)の昼光利用の面でも効果を発揮している。

5.昼光利用

十分な昼光を取り込むことができると、照明に必要なエネルギーを最小限にすることが出来ます。
昼光の取り込みは、日射取得面(南面)と、北面の窓から行います。 東面・西面の窓は、直射日光が侵入してしまうことと、昼光の強度の変化が大きいので、なるべく小さくしたいところです。
天窓も、北側に向いた屋根面に取り付けると、色々と良い働きをします。

日射が採れる場所に集中的に窓を配置した例。採光の補助のため、天窓も採用している。
北側の部屋で、北側の窓を大きくとって採光している例。 東の窓は日射遮蔽性能のために最小限にしている。
2020.08.04
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