温熱設計Hino Architectural Design

2-1.冬の温熱設計

パッシブデザイン+空調・換気=温熱設計

パッシブデザインが温熱設計の基本・土台となりますが、日本の気候風土と一般的な敷地条件では、パッシブデザインのみで健康で快適な室内環境を実現することは非常に難しいので、空調・換気設備が必要になります。
ですので、パッシブデザインと空調・換気を総合的に設計することが必要になり、それを温熱設計といいます。

冬の温熱設計
まずはパッシブデザイン、窓から日射熱を十分に取り入れ、
陽だまりのような快適空間をつくる

高い断熱性能に加えて、日射熱を十分に取り込むと、非常に快適な空間ができます。大きな窓の前では日射熱が床も温めるので、暖かさに包まれて、春の陽だまりにいるかのような空間になります。

実際冬の窓は、かなり強力な暖房器具です。

出典:松尾設計室 代表取締役 パッシブハウス・ジャパン理事 松尾和也氏

もし、パッシブハウスクラスの家(床面積120㎥、Q値=1、掃き出し窓5ヶ所で、庇が無い建物)の場合・・・ 家全体から逃げる熱量は、1時間当たりおよそ1800Wですが、窓から得られる日射熱は、掃き出し窓だけでおよそ 2800Wにもなり、晴れた日の昼間には、日射熱だけで25℃の室温を実現出来ます。

熱交換換気で、暖気と水分を逃がさない

シックハウスの原因物質・呼吸することで出るCO2・臭気などを排出するたえに、換気が必要ですが、せっかく20℃以上に暖めた空気を屋外に捨ててしまうのは、勿体ないしエネルギーの無駄遣いです。 そこで、熱交換換気システムにより、排気から熱を回収します。 高性能なものだと、90%程度の熱を回収できますので、暖房に必要なエネルギーを大幅に削減することができま す。

また、日本の冬は、湿度が低いです。 日射熱を取得し、暖房を補助したとしても、空気中の水分量が少な過ぎることには変わりありません。 むしろ家が高性能になり、室内の温度が上がると、空気が乾燥しないために必要な水分量は多くなるので、より多 く加湿する必要があります。なので、高性能な住宅には、空気中の水分を回収できるタイプの熱交換換気システム(全熱交換型)が最適です。

パッシブハウスレベルの温熱性能の場合、楽々と室温25℃を保てる断熱性能があるので、必要となる加湿量も非常に多くなります。全熱交換型の熱交換換気システムを導入したとしても、一日あたり10ℓ近く加湿する必要があります。 また、3種換気など、湿度を回収できない換気システムの場合、さらに数倍もの加湿をする必要が ありますが、それだけ大量に加湿することは現実的には困難ですので、全熱交換型換気システムが必要だと考えま す。

このように、十分な温熱設計をすることで、快適空間をつくることができますが、高性能のメリットはそれだけではありません。そのうちのいくつかを説明したいと思います。

高性能のメリット1−体感温度の向上−

断熱性能が高いと、外壁・屋根などの室内側の表面温度が、室温に近くなり快適的が高くなり、より健康に暮らせるようになります。その結果、同じ室温でも体感温度が非常に高くなります。 

出典:自立循環型住宅への設計ガイドライン

左の図は1990年頃の新築住宅のイメージです。
右の図はZEH相当のイメージですので、最近の新築住宅の平均よりは、高性能です。
左右の図は同じ室温ですが、体感温度には大きな差があります。 また、左の図の外壁の表面温度は、10.8℃と、壁の表面結露が起きる恐れのある温度まで下がってしまっていま す。 快適でないのは明らかですが、それ以前に表面結露による、カビの発生と、それによるアレルギーなどのリスクな ど、健康面のリスクが高いです。

高断熱のメリット2−低温・湿度ムラ・結露による、健康リスクの低減−

下のグラフは、冬の一番寒い時に、リビングと台所だけ暖房した時の、家の温度ムラをシミュレーションしたもの です。
断熱性能が低い昭和55年基準の場合、家全体の温度ムラは約10℃と非常に大きく、最低温度も6℃ほどしかありま せん。
そして、断熱性能が上がるにつれ、温度ムラは小さくなり、この図では一番高性能な HEAT20 G2 では、4~ 5℃で、最低気温も15℃程度まで向上しています。 結露しない最低条件が、室温10℃を切らない事なので、このグラフに多少の余裕をみると、HEAT20 G1 が健康で快適に暮らせる最低基準になります。

出典:HEAT20 設計ガイドブック
出典:HEAT20 設計ガイドブック

左の図は昭和55年基準の住宅です。
右の図はHEAT20 G1(=ZEH相当)の住宅ですので、最近の新築住宅の平均よりは、高性能です。
両方とも、リビングと台所だけ暖房した時の、家の温度ムラをシミュレーションしたものです。 左の家の場合、暖房していない部屋の温度が、非常に低くなってしまいます。 水色・青色の部分6~8℃程度しかなく、表面結露が起こる可能性が高いだけでなく、ヒートショックの危険性が かなり高い状態です。 実際、日本では、冬期には入浴中の死者が増える傾向にあり、ヒートショックによる脳梗塞などで亡くなっている と考えられます。

出典:エビデンス集(P51)

ところが、冬の寒さが厳しく、よりヒートショックの危険性が高いはずの北海道ですが実はヒートショックの発生割合が日本で最も低いです。 これは、住宅の高性能化が進んでいることの結果です。 逆に、温暖なはずの中国・四国・九州で、ヒートショックによる死者が多く発生しています。

これは、「温暖なはず」という油断で、住宅の断熱性能を軽視してきた結果です。 ですので、徳島県でも、断熱性能を高くすることは、必要です。

まとめ

このように、健康で快適な室内環境を実現するためには、温暖と思われている徳島県においても、思いのほか高い断熱性能が必要です。

  • 健康で快適な室内環境のための最低基準➡HEAT20 G1
  • 弊社の推奨する最低基準➡HEAT20 G2
  • 弊社が推奨する基準➡パッシブハウス
2020.08.04
温熱設計