温熱設計Hino Architectural Design

7.床下エアコン

床下エアコンの仕組み
床下エアコンの設置状況(西方式)
床下エアコンの設置状況(松尾式)

足は、ずっと床に接しているから・・・

キッチンで料理をしていても、テーブルで食事をしていても、リビングでソファに座っていても、足裏は常に、床に接しています。 重力がある限り・・・。
なので、床の温度は、住まい手の健康と快適性に大きな影響があります。 また、ソファでくつろぐ文化が定着してきたとはいえ、床に座ってくつろぐ習慣を持つ方も多いです。
とくに、小さい子供がいる家庭では、子供と目線の高さを合わせるために、大人が床に座ることが多くなります。 そしてその時、足裏だけでなく、下半身全体が床に接触していることになります。 そうすると、床の温度を快適になるようにコントロールすることは、ますます大切になります。

床を最適な温度にし、最高の快適空間を

床下エアコンが正常に機能すると、床の温度が26℃前後になります。 それは、暑くも寒くもない、不快感のほとんど無い温度です。
ですので、パッシブデザインに床下エアコンが加わると、最高の健康・快適空間ができます。

窓の前と、TVボードの下に床ガラリがある。 床下エアコンの暖気で、リビング全体を暖房し、トリプルガラスとはいえ、わずかに起こる窓のコールドドラフトを打ち消す狙いがある。
そしてこれは、床下エアコンでなければ実現出来ないものです。
床下エアコンと競合するものに、床暖房があります。 しかし、一般的な床暖房は、床の温度が30~35℃程度になります。
家全体の温熱性能が低い、昔の家ならば、このぐらいの表面温度があった方が良い場合もあります。 しかし、パッシブデザインを十分に行った高性能住宅に設置するとなると、話は別です。 体周辺の空気の温度、外壁・窓の表面温度なども高くなっているので、床暖房の床温度の場合、冬でもむしろ暑くて不快と感じてしまう恐れが高いですので、相性は悪いと考えます。
ですので、このような組み合わせが、相性が良いと思います。

床暖房なのか、空調なのか

床下エアコンというと、床の温度を上げるためのもの、つまり床暖房の一種と思われている方が多いです。 しかし、実際は暖房システムのチャンバーとして床下空間を使っている、という方が正しいように思います。 もちろん、床の表面温度も上がるわけですが、そもそも、熱は上に移動します。
ならば、暖房は一番下の場所からするのが良いのではないでしょうか。

床の温度=26℃、その根拠

人体の中立温度は次の図の通りです。

このように、足裏の中立温度は26℃です。 足裏以外の中立温度は、22~23℃で、額が最も低く、22℃となります。 このように、足裏の中立温度だけが飛び抜けて高いわけですが、それは、足裏が常に床に接していて、床の温度の影響を受けやすいことと関係があるように思います。
また、日本人独特の習慣である、床に座ってくつろぐ場合、下半身全体が床に接することになります。 このことも考慮すると、床の最適温度は24~26℃など、26℃を基準として、少し下に幅を持たせるべきかもしれません。 そうなると、ますます床暖房とは相性が悪いと思います。

床下エアコンの歴史

床下エアコンとは、広島県のカオル建設の衣川さんが、最初にやり始めたものだと思います。
その後、秋田の西方設計の西方さんが、自社物件で全面的に採用しました。 西方さんの場合、当初はエアコンではなくFF式石油ファンヒーターを熱源として採用されており、西方さんの知名度が高まると同時に、床下を空調することも、全国に認知度が高まりました。
その後、パッシブハウス・ジャパンの理事である、兵庫の松尾設計室の松尾さんが、床下エアコンを自社物件で全面的に採用しはじめました。 松尾さんは、全国で講演を多数されている方なので、自身の設計活動だけでなく、講演会や建築雑誌の特集記事などで、床下エアコンを紹介されました。確か2013年頃からのことだったと思います。

床下エアコンの流派

一言で床下エアコンと言っても、設計者により、やり方が少しづつ異なり、現在では「西方式」、「松尾式」の二つが有名です。 その他の、標準的に採用されている方として、最初にはじめられた衣川さん、新潟のオーブルデザインの浅間さんなどがいらっしゃいます。

弊社の取り組みの歴史

弊社代表も、松尾さんが床下エアコンを講演会・雑誌記事で紹介し始められた当初から、それらを見ていました。 当初から興味を持っていたのですが、ちょうどその頃、ある出来事があり、それをきっかけに床下エアコンに取り組むようになりました。 それが2014年頃のことですので、今や数多い、床下エアコンに取り組む設計者の中でも、比較的早くから取り組んでいます。
当初は、講演会・雑誌で見た「松尾式」に取り組み、講演会・雑誌などで見た断片的な情報を頼りに最善を尽くしましたが、様々な課題を残す結果となりました。主に、床下の温度のムラが問題となり、様々な対策の結果、一応のご納得を頂きましたが・・・。
ですがこの中で、実際に機能させるために何が必要なのかなどをある程度理解出来ました。
その後、2016年の4月にパッシブハウス・ジャパン四国支部が、西方設計の西方さんを講師として招き、床下エアコンの勉強会を開催しました。この勉強会では、床下エアコンのための特殊基礎である、扁平地中梁による基礎の設計方法を、結構詳しく知ることが出来ました。 扁平地中梁による基礎とは、下の実例写真のようなものです。

このように、基礎内部に空調の風の障害となるものがほとんど無いので、床下を一体の空間とすることができます。 ですので、床下エアコンの暖気が、床下全体に拡散されやすくなりますので、床下エアコンのためには、最適なものだと思います。 しかも、実現するためには本格的な構造計算(許容応力度計算)が必要なので、耐震等級3と両立させることができます。
弊社代表は、この勉強会以来、扁平地中梁による基礎の床下エアコンを設計・施工し続けてきました。 経験を積み重ねることにより、より効率的でコストが抑えられる設計方法に気付くこともあります。 また、床ガラリ・エアコン本体の配置などは感覚的にとらえて行っていくしかありません。
ですので、徳島県では、床下エアコンに関しては、他のどの業者さんよりも、良い提案が出来ると確信しています。

弊社が取り組み始めたきっかけ

先ほど、とあるきっかけで床下エアコンに取り組み始めた、と書きましたが、そのきっかけとは、あるユーザーさんの言葉でした。
2014年の春頃、あるユーザーさんのお宅に伺った時のことです。 当時、既に高断熱化に取り組んでいましたので、冬の住み心地についてどのような感想が頂けるか、楽しみにしていました。
予想通り?「夏も冬も、エアコンが一瞬で効きますね!」と嬉しい感想を頂きましたが、同時に・・・。 「1階の床が冷たいのが少し気になるかな~、でもスリッパを履いているから特に問題ないけど」というお言葉を頂いてしましました。
別にクレームになるようなものでは無いのですが、十分に満足して頂けなかったのには違いありません。 しかも、その時点で採用している工法のままでは、その問題を解決できる見込みはありませんでした。

基礎スカート断熱のデメリット

当時は、基礎スカート断熱を採用していました。
これは、西日本では一般的なもので、土壌の安定した温度は、冬は暖房の助けになり、夏は冷房の助けになるので、家の中央部は断熱する必要が無いという考えです。

実際、昭和55年基準、平成4年基準、平成11年基準など、従来の日本の省エネルギー基準レベルの家づくりならば、その通りだと思います。
ですが、家全体の断熱性能が高くなり、目指す室内温熱環境も、25℃・50%などの高いものになると、デメリットも出てきます。

このように、パッシブハウスに近い温熱性能ともなると、室内温熱環境は、25℃・50%が基準となってきます。
一方、家の下の土壌の温度は、どんなに高くても15℃程度。 暖房の助けになることはありません。しかも、家の中央部の、断熱していない基礎スラブから熱がどんどん逃げていきます。
ですので、床下エアコンをする場合、もしくはパッシブハウスに迫るような高性能住宅とする場合、 基礎スラブ下に断熱材を敷きこむことは、絶対必要になります。

  • 高性能住宅➡床下エアコン
  • 中性能・低性能住宅➡床暖房
2020.08.04
温熱設計