温熱設計Hino Architectural Design
3.これからの家づくりにふさわしい温熱性
高性能住宅へのハードル
冬暖かく、夏涼しく、健康で快適に過ごすためには、高い温熱性能が必要なことは、最近では一般的に知られていることです。
ですが、「高い温熱性能」とはどのくらいの性能なのでしょうか?
長期優良住宅を取れる温熱性能なら、国のお墨付きがあるし、十分な温熱性能なのでしょうか?
もっと高い性能が必要なのでしょうか?
ひょっとして、パッシブハウスが、必要最低限の性能なのでしょうか?
この疑問は、設計者・工務店・ハウスメーカーなどのプロ側の人間もはっきり理解していない場合が多いです。
本当に壁をつくっているのは、プロ側かも・・・
高性能住宅を提案するためには、乗り越えなければいけないハードルが数多くあります。設計・施工の技術的なものだけでなくLCC(建築コスト+ランニングコスト)で考えると安くなることをお客様に説明すること、そして高断熱にする意義を理解することです。これらを乗り超えるためには、知識だけでなく相当な情熱とエネルギーが必要です。 なので、プロ側が安易な方向に流れてしまい、本当に必要な性能にはるかに及ばない性能の提案に留まってしまうケースが多々あります。
ですが最近では、一般の方も様々な情報を得ることが出来ます。 しかも、プロ側の人間のように、従来の常識やしがらみにとらわれるわけではありませんので、どういう家づくりが良いのかを正しく判断しているように感じます。
建築コストのハードルは、本当は存在しない
温熱性能を上げることで、光熱費が抑えられ、年間およそ10万円程度節約できます。 30年住めば300万円、断熱工事をするのに十分な金額です。 さらに、エアコンの容量・台数が減らせられるので、設備費も下ります。 中途半端な性能の家を建てるより、より高断熱な家を建てる方がLCC(ライフサイクルコスト)は安くなる場合が 多いです。
高気密高断熱は、断熱オタクが不必要なことをしているのではありません!
先に結論を書きます。
住宅のプロとして提案する以上、最低でもHEAT20 グレード1(G1)以上の温熱性能の提案をすることが職業論理上も当然です。
とはいえ、HEAT20 グレード1 は、あくまで最低ラインですので、やはり中途半端な部分が多いと感じていますので、積極的に選択したいとは考えていません。
HEAT20 グレード2(G2)になって、ようやく合格点の領域に入ってくると考えています。
そして、パッシブハウス(≒HEAT20 グレード3(G3))に近い性能まで行くと、真の意味での健康で快適な室内温熱環境になりますので、弊社としてはパッシブハウスクラスの温熱性能を提案の基本としています。
なぜそれだけの高性能が必要なのか、最近の平均的な新築住宅の問題点を見直すところから見ていきたいと思います。
新築が暖かい・・・気がするのは、既存住宅がひどすぎるから
最近の新築住宅は、2000年頃以前よりも断熱性能・気密性能が多少向上していて、そして古い家から引っ越しすると、以前よりも暖かいと感じることが多いです。ので、これで良いのではないか?という意見もあります。
しかし、ここには落とし穴があります。
以前より良くなりましたが、実は不十分な性能ですので、多くの人は、慣れてくるとそのことに気付きます。
そのことは、ある調査によって明らかになっています。
室内温熱環境は、初期段階・設計者からの提案・最終(採用)ともにかなり重要視しているのに、満足度が非常に低くなっています。
住宅のプロたる設計者が、どう考えて提案していようと、最近の平均的な新築住宅は、温熱性能が不足していることは明らかです。
足りていないということが分かった、最近の新築住宅の平均的な温熱性能はどのくらいなのか
ある調査によると最近の平均的な新築住宅の温熱性能は、いわゆる次世代省エネ基準(≒平成28年基準)に届くかどうか微妙なものだと思います。しかも断熱・気密施工に難があるものが多いので、実質は次世代省エネ基準に届いていないのではないかと思います。
仮に、次世代省エネ基準に届いていたとしても、非常に中途半端でもったいないものでしかありません。また、気密性能については、基準どころか目標値すら無いことも、大きな問題です。
また、グラスウールの入れ方の、基本すら知らない施工者が多いので、断熱材が正常に機能しないことが多いです。気密性能に関する基準値もありませんので、施工者には「気密を取る」という意識すらないことも多いです。
結果的には、次世代省エネ基準という低い基準にすら程遠い断熱性能、スカスカの気密性能の住宅になってしまい、次のような問題点が発生します。
- 壁体内結露による、壁体内全体のカビの発生リスクが高い
- 気密性能が低いので、暖房しても、天井から逃げてしまい、代わりに1階の床周りから外気が入るので、暖房するほど底冷えする
次世代省エネ基準は、アルミサッシ+ペアガラスで基準値に届いてしまい、これが最悪の連鎖反応を引き起こします。
そもそも、アルミサッシで高断熱化すること自体が、あり得ないことのです。
-
ペアガラスになったことで、断熱性能はある程度高くなる
↓
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リビングなどは、20℃以上に暖房することが可能になる
↓
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温度が上がり、空気が乾燥するので加湿器を導入し、湿度を上げようとする
↓
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アルミサッシの枠の部分で大量の結露が発生する
(窓側の裏側など、見えない部分でも発生する)↓
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結露したところなどにカビが発生し、アレルギー・喘息などのリスクが高まる
(余談)罪深き、次世代省エネ基準
意識の高い設計者・工務店は、アルミサッシで達成できてしまうレベルに基準を設定すること自体に対して、批判的な意見が多く出ています。
話は少し大きくなりますが、アルミサッシで達成できてしまうレベルに基準を設定すること自体、罪深い行為なのではないでしょうか?
建築業界の実情を考えて・・・とか言われていますが、単にアルミの消費量を下げたくない、アルミ製造業者との行政との癒着なのではないか、と考えたくもなります(あくまで個人的な想像ですが・・・)。
温熱性能が良くなると・・・
次世代省エネ基準(≒平成28年基準)では、どう考えても、性能不足なのは明らかです。
それを証明している、面白い調査データがあります。
断熱グレード5になると、様々な健康上の問題が大幅に改善しています。その理由を考えてみたいと思います。
まずアレルギー性の結膜炎・鼻炎が、断熱グレード5になると大幅に改善する原因は、サッシが良くなったことにあると思います。断熱グレード5の場合、おそらく樹脂サッシ、最低でもアルミ樹脂複合サッシになっていて、サッシ枠の表面結露によるカビの発生が減って、アレルギーの原因物質が減ったことで、改善されたものと思われます。
のどの痛み・せきが、断熱グレード5になると大幅に改善する原因も基本的に同じで、サッシが良くなったからです。
のど・口の粘膜は、空気中の水分量が一定量を下まわると乾燥してしまい、のどの痛み・せきが起こりやすくなります。 サッシ枠の表面結露が抑えられることで、十分に加湿することができるようになり、のど・口の粘膜を乾燥から守ることができるようになったものと思われます。
目のかゆみ・肌かゆみも、断熱グレード5になると、急に改善しています。この原因もやはり同じです。
湿度が改善されたことにより、肌・眼球が潤った状態になり、かゆみが改善したものと思われます。(湿度30%以下では眼球粘膜が乾燥し、まばたきの回数が増加します。)
湿度のコントロールが、健康・快適への入り口
このように、次世代省エネ基準を超える性能の住宅では、結露を抑えることができるので、加湿することが出来るようになります。
室温だけでなく湿度もコントロールすることで、健康で快適な室内温熱環境を実現できるようになります。湿度のコントロールがどの程度、健康と関係しているかについて、面白い表があります。
すぐ上でも書きましたが、湿度をコントロールすることは、健康で快適な室内温熱環境に近付けるためには絶対必要なことで、湿度を40〜60%にコントロールすることで、様々な健康問題から身を守ることができます。
のど・口の粘膜が乾燥した状態では、粘膜浄化機能が低下し、ウィルスに感染しやすくなるので、風邪・インフルエンザなどにかかりやすくなってしまっています。
このように、湿度40〜60%wをはずれると、様々な健康問題が発生しますが湿度が40%以下で健康問題の主な原因となるのは、のど・口の粘膜が乾燥してしまうことです。のど・口の粘膜は空気中の水分量が一定以上でないと乾燥してしまいます。
また、湿度をコントロールすることのメリットは他にもあります。インフルエンザウィルスは、家の中全体を、換気システムなどに乗って漂いますが、湿度50%以上の場合は、ウィルスの生存率が急激に低下し、10時間程度でほとんど死滅します。なので、風邪・インフルエンザの観点から見ると冬期の湿度は、50%以上に保ちたいところです。
健康で快適な室内温熱環境の最低ライン
このように、様々な健康問題を、温度・湿度をコントロールすることで改善できるのですが、各要因で必要な温度・湿度が多少違いますので、表にまとめてみました。
要因 | 温度 | 湿度 |
---|---|---|
目・肌のかゆみの改善 | 30%を超えること | |
のどの痛み・せき・ウィルスへの抵抗力の改善 | 20℃・50%~25℃・40%以上 | |
インフルエンザウィルスを死滅させるために | 50%以上 |
これらを総合すると、健康で快適な室内温熱環境の冬の最低ラインは、室温20℃・湿度50%ということになります。
目指す室内温熱環境と窓の関係
ここまでで述べてきたように、健康で快適な室内温熱環境の冬の最低ラインは、室温20℃・湿度50%とわかりました が、上の図をよく見ると、のど・口の粘膜が潤う領域に少し届いておらず、少し乾燥気味のように思います。 また、個人差も考慮する必要があるように思いますし、もう少し性能を上げるべきではないかと考えています。
ですが、絶対湿度(空気中の水分量)が増えると、露点温度(結露が始まる温度)も高くなります。どこかでペア ガラスでは対処できなくなるはずです。そこで、次の表を作って検討してみました。(樹脂サッシまたは木製サッシで、枠は結露の恐れが低いという設定です。)
目指す室内温熱環境 | 露点温度 | 結露しないための窓 | ガラスの表面温度 (冬期の最低温度) |
---|---|---|---|
温度20℃・湿度50% | 9.4℃ |
樹脂サッシ(高性能ペアガラス)U=2.33 |
約11℃ |
温度22℃・湿度50% | 11.2℃ (結露寸前!) |
樹脂サッシ(ペアガラス)U=1.9 |
約12℃ |
温度25℃・湿度50% | 13.8℃ | 樹脂サッシ・木製サッシ(トリプルガラス) | 約16℃以上 |
温度20℃・湿度50%ならば、過去の設計・施工物件を実測した結果、APW330(アルゴンLow-Eペアガラス)の 冬期の室内側ガラスの表面温度は、およそ12℃でしたので、十分に結露を防ぐことが出来ます。
温度22℃・湿度50%の場合は、ギリギリ防ぐことが出来るかもしれませんが、かなり危ないです。 測定日は、外気温が5℃程度でしたので、もっと寒い、外気温0℃の場合は、結露することも考えられます。 また、サッシ枠の表面温度は、ガラスよりも少し低いことが一般的なので、そういう意味でも、室温22℃・湿度 50%を目指すなら、やはり樹脂サッシ(トリプルガラス)が安全だと思います。
温度25℃・湿度50%の場合は、ペアガラスでは全くの力不足ですので、樹脂サッシ(トリプルガラス)以上の一択になります。